ロコモティブシンドロームは介護のきっかけとなる

急速な高齢化に伴い増える要介護・寝たきり

要介護の4人に1人は関節の病気や転倒などが原因

近年、介護を必要とする人や寝たきりになるお年寄りが急速に増えています。介護が必要と認定された人の数は、この数年間でおよそ2倍に増加しました。要介護や寝たきりになる原因には、「脳卒中」や「認知症」があります。しかし、約4人に1人は「関節の痛み」や「転倒」などによる「骨折」など、骨、関節、筋肉といった体を動かす「運動器」の障害が原因です。
最近の研究で運動器の障害は要介護や寝たきりにつながるような状態がいくつも重なっていることがわかってきました。そのため、要介護や寝たきりを防ぐには、これまでとは違う概念で運動器の障害をとらえることが必要になっています。そうした考え方から、新たに提唱されたのが「ロコモティブシンドローム」です。

ロコモティブシンドロームかどうかを確認する方法には、「ロコモーションチェック」、があります。5項目のうち1 項目でも当てはまれば、ロコモティブシンドロームです。自分では「元気だ」と思っていても、「ロコモーションチェック」の項目にあげられているようなことがある状態を放置していると、介護が必要になつたり、寝たきりになる可能性があります。ロコチェックで1 つでも当てはまる項目があった場合は、運動器リハビリテーションの専門医に相談するとよいでしょう。

「ロコモーションチェック」

  • 片脚立ちで靴下がはけない
  • 家の申でつまずいたり滑ったりする
  • 階段を上るのに手すりが必要
  • 5 分くらい続けて歩けない

全身の状態から要介護の可能性をみる

運動器の機能低下に関しては、関節が痛む「変形性関節症」や、骨折しやすくなる「骨租軽症」などの病気がすでに知られています。ただし、これらの病気とロコモティブシンドロームは、その病気や状態の捉え方が大きく異なります。
変形性関節症や骨粗鬆症では、「痛み」といった症状や骨折に重点を置いて、個別の病気として対処します。
ロコモティブシンドロームでは、要介護や寝たきりの予防に重点を置いているので、個別の痛気だけではなく、生活の自立度から、骨や関節、筋肉などを含めた全身の状態をみて、その人に合った対処を行います。「階段を上れない」「筋肉量が極端に少ない」「よく転ぶ」といった場合は、自立度が低下しており、要介護や寝たきりになる可能性が高いといえます。
こうした自立度の低下は、高齢者に限らず、比較的若い人でも起こることがあります。

原因は、バランス能力や筋力の低下、そして骨粗鬆症

ロコモティブシンドロームの主な原因として、次の5 つの運動器の機能低下や疾患があげられます。

  1. バランス能力の低下
    体のバランスをとるためには、筋肉、関節、脳のネットワークが円滑に働く必要があります。そのネットワークのどこかに障害があると、バランスがうまくとれなくなります。
  2. 筋力の低下
    筋力も年齢を重ねるにつれて低下していきます。歩いたり立ったりする動作を行ううえで重要な役割を果たしている筋肉が特に低下します。
  3. 骨粗鬆症
    骨の量(骨量)が減少して骨がもろくなり、骨折しやすくなる病気です。骨粗鬆症になりやすい人はこちら。
  4. 変形性関節症
    膝や腰といった関節にある「軟骨」がすり減るなどで痛みが現れる病気。
  5. 脊柱管狭窄症
    背骨の中には「脊柱管」という空間あり、脳から伸びる「脊髄」やそれにつながる「馬尾神経」が通っています。加齢などで脊柱管が狭くなると、これらが圧迫され、手足に痛みや「しびれ」などが現れたり、力が入りにくくなります。

これらの病気に関しては、それぞれの病気に対する治療が必要です。しかし、これらの病気をもっている人は、ほかの病気を併せもっていたり、バランス能力や筋力が低下していることが多いため、ロコモティブシンドロームの考え方では、全身の状態をみることが重要になります。
例えば、「変形性膝関節症」では、膝の痛みなどの症状そのものに対する治療だけを行うのが一般的でした。しかし、そのほかにもバランス能力や筋力の低下など、ほかの部位にも障害が起こっている場合には、膝の痛みの治療だけでは生活の質は保てません。全身の状態をみて、バランス能力の強化を図るなどの対策をとることで、生活の質を維持できるようになるのです。

寿命が運動器の耐用年数を上回る

日本の平均寿命は急速に延びて高齢化を迎え、運動器を80年以上使う人は70万人を超えています。骨や関節にとって、これほど長く使われるのは想定外のことなのでしょう。人間の運動器の耐用年数を超えるほど平均寿命が延びたため、体を上手に使って、運動器の機能を維持することが必要になってきました。早い人では、40歳代から現れるため、早い投階からロコチェックを行い、ロコモティブシンドロームの危険性がないかどうかを確かめてみましょう。

運動器悪化の仕組み

変形性関節症などのイメージから膝は「使いすぎるからダメになる」 と思っていませんか?実は、まったく使わないことも、要介護や寝たきりにつながります。

変形性関節症とは関節の中の軟骨がすり減ることで痛みが現れる

膝や脚の付け根といった関節に「炎症」や「痛み」などが起こるのが、変形性関節症です。この病気で悩んでいる人は多ひく、「変形性膝関節症」だけでも、全国に約2530万人いると推計されています。

どのようにして起こるのか

通常、膝関節は、軟骨の表面が非常に滑らかで、動きも円滑です。ところが、加齢などによって軟骨がすり減ったり、なくなって骨が露出したりすると、炎症を起こしたり、痛みが現れてきます。膝に過剰な負担をかける肥満などは、軟骨がすり減る原因になります。また、高齢になると、軟骨の質がある程度低下するため、以前と同じ力が加わっても、すり減り方が大きくなつたり、軟骨が傷みやすくなったりします。

治療後は、軟骨に似た組織が、すり減った部位の表面を覆う

軟骨は、いったんすり減ると、その再生は困難です。ところが、最近の研究では、すり減った軟骨が別の形で修復されたとの報告もあります。手術を受けて膝にかかる負担を軽くしたところ、軟骨そのものではありませんが、よく似た組織ができ、表面が滑らかになったのです。
このように膝への過剰な負担を適正にすることで、すり減った軟骨の表面に似た組織ができ、症状の改善が期待できます。手術以外にも、「体重を減らす」「装具を使う」「生活習慣を改善する」などで、膝への負担を減らすことが可能です。

膝を使わないのもよくない

膝への負担を減らすために、膝を使わないようにすればよいかというと、そうではありません。軟骨は、関節液から栄養を取り入れます。立ったり歩いたりして軟骨に圧力がかかると、関節液は軟骨から押し出され、圧力がかかっていないときには、逆に軟骨に取り入れられます。膝を使わないと、軟骨への関節液の出入りが不十分となつて栄養が不足し、かえつて軟骨が傷みます。膝をまったく使わないでいると、軟骨が減ったという研究もあります。使いすぎは問題ですがまったく使わないのもよくありません。

骨の量が減少して、骨折しやすい状態になるのが骨粗鬆症

骨の量(骨量)が減ってスカスカになり、骨折しやすくなるのが骨粗鬆症です。骨には、骨を壊す「破骨細胞」と骨をつくる「骨芽細胞」があります。通常は、壊された分と同じ分だけ新しい骨がつくられるので、バランスがうまく保たれています。そして、1年間に、全身の骨の約20% が入れ替わっていきます。そのバランスが崩れて、壊される骨のほうが多くなると、次第に骨董が少なくなり、骨粗鬆症になってしまいます。

骨の代謝のバランスが崩れる主な原因

加齢や閉経による女性ホルモンの分泌の減少は、骨の代謝のバランスを崩して骨租軽症を引き起こします。最近の研究では、「重力」や「筋力」などの「メカニカルストレス」がかかわっていることもわかってきました。カルシウムの吸収を妨げるものは注意が必要です。

対処法

個別の病気の治療は平行して行い全身を動かす運動を行う

「ロコモティプシンドローム」があると、歩いたり、動いたりするのに支障を来します。しかし、そのためにふだんから動かないでいると、さらに症状が進みます。ロコモティブシンドロームの予防や進行防止には、全身の状態に合わせた適度な運動である「ロコモーショントレーニング」が必要です。
予防や対処の方法には、「骨粗鬆症」の進行を抑える薬や「関節の痛み」を抑える薬などによる「薬物療法」もあります。肥満などを防ぐための「食事療法」も大事です。しかし、歩いたり動いたりする筋力やバランス能力は、動かないでいるとますます衰えていきます。

ロコモの重症度

ロコモティブシンドロームの症状やその程度はさまざまですが、歩ける距離や場所からおおよその判断がつきます。例えば、屋外を15分以上続けて歩ける場合は「軽症」です。屋外は歩けないけれども、屋内は歩けるなら「中等症」です。つかまり立ちならできる、座ることならできるという場合は「重症」になります。

関節に過剰な負荷をかけずに骨を強くし、筋肉を鍛える

ロコトレとは、ロコモティプシンドロームの予防や改善のための運動のことです。
ロコモティブシンドロームは、直接命にかかわるものではありません。そのため、「こわいものだ」とあまり感じられないかもしれませんが、介護が必要になったり、寝たきりにつながる大きな原因になります。介護を必要とせず、自立した生活ができる「健康寿命」を延ばすためにも、若いうちから注意して予防を心がけましょう。また、「年だから」とあきらめないことも重要です。ロコモティブシンドロームで大切なのは「上手に体を使う」ことです。

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